
- インタビュー記事
循環型社会の推進に取り組む。坂野晶さんが語る「環境分野で働くために必要なスキル」とは?
2022年7月20日
「学生時代にすべきことって何だろう?」と考えたことはありませんか?
“興味を持ったものは何でもやってみること”そう話してくれたのは、関西学院大学総合政策学部を卒業し、現在はゼロ・ウェイスト(廃棄物削減と資源循環)の推進に取り組む坂野晶さん。
環境問題に向き合い、解決策を提供し続ける坂野さんに「環境分野で働くために求められるスキル」について教えていただきました。

一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン 代表理事
一般社団法人Green innovation 理事
兵庫県西宮市生まれ、鳥好き。絶滅危惧種の世界最大のオウム「カカポ」をきっかけに環境問題に関心を持つ。大学で環境政策を専攻後、モンゴルのNGO、フィリピンの物流企業を経て、日本初の「ゼロ・ウェイスト宣言」を行った徳島県上勝町の廃棄物政策を担うNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーに参画。理事長として地域の廃棄物削減の取組推進と国内外におけるゼロ・ウェイスト普及に貢献する。米マイクロソフトCEOらとともに、2019年世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)共同議長を務める。2020年より一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンにて循環型社会のモデル形成に取り組む。2021年、脱炭素に向けた社会変革を起こす人材育成プログラムGreen Innovator Academyを共同設立。
学生時代から海外で活動。卒業後はごみを減らす仕組みづくりの道へ

坂野さんは関西学院大学総合政策学部をご卒業されたんですよね。そもそもどうしてこの学部を選んだのでしょうか?
坂野さん
もともと環境について興味があって、特にどうすれば環境問題が根本的に解決するのか考えたかったためです。社会制度からのアプローチ、つまり環境政策ですね。

確かに、表面的な解決策が多い印象ですよね。大学時代もそういった活動に関わったりしたのでしょうか?
坂野さん
そうですね、直接的に「環境政策」に携わる活動は少ないのですが、アイセックという団体活動の中で環境に関するプログラムも運営していました。
大学4年時にはモンゴルに渡り、現地のアイセックのモンゴル支部の代表に就任しました。

アイセック…AIESEC(アイセック)とは、カナダのモントリオールに本部を置く海外インターンシップの運営を主幹事業とする世界最大級の学生団体のこと
世界中で活躍されていたんですね、、、!すごいです!
坂野さん
卒業後もそのまま海外で働きたいと思い、就職活動をしました。
ところが、国際的な場で「環境」に携わる仕事をするとなると、とても条件が厳しかったんです。
環境分野の仕事で代表的な『国際NGO』や『国際機関』といったところは修士号が必要でかつ実務経験が2年以上必要なんです。

修士号取得に実務経験…大変そうです。とても狭き門ですね。
坂野さん
そんな実績が私には無かったので、国外での環境分野での就職は難しいと断念。
結果的には国際物流最大手の会社のフィリピン支社に就職しました。

そういった経緯で就職したんですね。初めから環境分野への就職ではないことに驚きです!どのようにして現在の活動に至ったのですか?
坂野さん
国際物流の会社を2年間在籍後に退社し、環境分野へ舵を切ろうと、まずは修士号取得のため大学院を受験しました。

一度就職した後に、大学院受験ですか、、、!!大胆な行動ですね!
坂野さん
多くはないですよね(笑)
その受験から入学までの間、日本に一時帰国中で半年ほど余裕があったため、上勝町に滞在したんです。
ここはごみの政策に早くから取り組んでいる地域として知られていました。結果的にこの上勝町で、念願の環境政策に携わることになるのですが・・。
様々なご縁とタイミングが繋がり、受かっていた大学院に行かずに、上勝町で長年ごみの政策を担ってきた、NPO法人『ゼロ・ウェイストアカデミー』という団体に参画しました。ごみや無駄をなくしていくという仕組みづくりを上勝町内中心に行いつつ、そうした施策自体の国内外への普及にも取り組みました。
5年後に退職し、もう少し全国で取り組みを広げるために出来ることをしたいと考えて一般社団法人『ゼロ・ウェイスト・ジャパン』という団体を立ち上げ、現在は自治体や地域、ビジネスの廃棄物削減、資源循環の仕組みづくりのお手伝いをしています。

どんどん夢へと近づいていっていますね!行動力が素晴らしいです。『ゼロ・ウェイスト・ジャパン』について、もう少し詳しくお話して頂いてもいいですか?
坂野さん
業種は、一般的な表現で言うとコンサルタントになりますね。ただ、提案するだけでなく実践まで伴走するのがポイントです。

素晴らしい理念ですね!具体的にはどんな活動をしているのでしょうか?
坂野さん
主軸は自治体や地域での廃棄物削減や資源循環の仕組み・政策づくり。例えば、行政、自治体と一緒に地域内の状況や、ごみの排出量を調べ、調査結果を基に施策提案を行って計画や方針を作っています。
さらに、計画して終わりではなく数年かけて計画に書いた取り組みの中身を導入していく。PDCAを回すところまでを一緒にやっています。それをいくつか地域ごとに行っているのと併せて、地域内外の事業者と一緒に企業内でごみを減らすためのお手伝いもしています。

提案だけで終わらずに実行まで伴走してくれるのは、自治体にとってもありがたいですよね!
坂野さん
それ以外にも、行動変容や取組のきっかけづくりのためのツールとして、『ゼロ・ウェイスト認証制度』という、事業者がごみを減らすために何が出来るのかをガイドライン的にまとめたものや、環境教育の教材としてごみを日常生活の中でどのように減らせるか?をクリエイティブに学ぶことが出来る『ごみゼロゲーム』なども作っています。

環境問題に対する解決策を幅広く実践されていて、本当にかっこいいです。特に力を入れているところがあれば教えてください!
坂野さん
個人的に一番好きで力が入るのは自治体や地域とのプロジェクトですが、私はほぼ全ての業務に関わっているので、全て大事な仕事ですね。
リサーチが得意なコアメンバーがリサーチを主に担当するというように、関わる度合いの強弱はありますけどね。また仕事の進め方の特徴として、各地域ごとにプロジェクトチームがあると考えてもらえれば良いのですが、、、

同時進行でいくつものプロジェクトが進んでいる形なんですか?
坂野さん
現状7〜8個くらいですかね。ゼロ・ウェイスト・ジャパン単体ではなく他の組織と合同で取り組んでいることも合わせると10個ぐらいになります。
年間通して取り組むものと、数カ月だけ取り組むものと色々あります。

そんなに同時進行されているんですか!とても精力的ですね!
仕事をしていて楽しいときややりがいを感じる時があればお聞きしたいです。
坂野さん
頭の中で思い描いていたことが、形となって前に進む時ですね。
地域や行政との仕事はすぐに成果が出るわけではないですが、ある程度仮説を持っていたことが実現出来るときは楽しいです。

そうなんですね!そう思い始めたエピソードがあるんでしょうか?
坂野さん
今、長野県の小布施町で仕組みづくりを行っているのですが、ちょうどこれが該当しますね。
当初、ここにはごみの調査結果のデータがなかったんです。
そのため、まず初年度に役場の庁舎のごみの調査をしたところ、全体量は少ないが3分の1が紙だった。残りの3分の1が落ち葉や栗の皮といった生ごみ。残りの3分の1は一部には資源に出来そうなものが混ざっていたが大半が焼却せざるを得ない可燃ごみでした。
明確になった現状に対して我々は、役場の職員向けにしっかりと紙の分別をするように呼びかけました。すると、今年の同じ役場の庁舎のごみ調査では、紙の混入率が半分以下になったんです。
という風に、実は当たり前のことしか言っていないのですが、当たり前を明確にすることで課題が解決に向かっていくのが面白いです。

環境分野で働くために必要なのは「経験」と「人の話を聞く力」

まさに今、坂野さんのように環境分野で働きたい若者が増えていると思います。実際にそういった分野で働くために必要な準備、スキルがあれば教えてください。
坂野さん
大切なことは、2つあると思っています。
1つ目は経験。地域内で色々な人とコミュニケーションを取るんです。その上で実行して、様々なフィードバックがまた戻ってきてという風になりますよね。それをひたすら続けるんです。
頭で考えている通りにはならないこともありますが、まずはその推進をしてみるという経験が何より大事だと思います。

確かに、とにかく行動してみることは大事ですね!
坂野さん
2つ目は人の話を聞く力。過去に経験をしたことが必ずしもどこでも通用するとは限りません。経験した方が良いという一方で、地域内の現状を知らないと提案はできません。
例えば先程の話でも、生ごみは堆肥にして資源循環させればいいというのは、どの地域でも定石なんです。ただ、その地域内の人たちの経験や特性、生活動線といった色んなものを踏まえて調整や設計をしなくてはいけない。
その地域に実際に導入して実行し、続けていける仕組みを考えるのが一番難しいポイントなんです。
地域の人の理解をどれだけ得られるか、本当に実効性のある取り組みが出来るかは、人の話を聞いてどれだけ現状を把握できるかにかかっていると思います。

なるほど、環境に関する知識があるだけではダメ。地域によって現状が違い、単純な繰り返し作業では無い分、ヒアリングがとても大事になってくるんですね!
総合政策学部にはやりたいことをやるための余地がある
総合政策学部での学びはどう生きていますか?
坂野さん
異分野の人たちがたくさん集まっていて、ジェネラリストとして幅広い知識や経験から考えてコーディネートすることが得意な人が多かったというのが、面白いポイントだったかなと思います。
英語の授業等も含め、留学生や帰国子女が多かった。学問よりも、そうした環境に惹かれて入ってきていた同期や先輩たちと関わることが面白かったです。
そうした周囲の人から学んだコミュニケーションや生き方、興味範囲の広さ、みたいなものが今も生きているように思います。

周りの人からの刺激は大きかったのですね。実際、総政に通ってる人は他の学部より活動的な人が多かった印象があります。
坂野さん
むしろちゃんと研究ができなかったことは今振り返ると物足りなく感じますが、色々な活動をしながら、実践を通して考える機会を得やすいという意味では環境的には良かったと思いますね。

坂野さんの活動は、「社会活動を多角的なアプローチで解決する」という総政的な視点に適っていると思うのですが、知識的な部分は独学が多いのでしょうか?
坂野さん
そうですね。実践で使えるようになるには、自主的に追加で勉強した方がいい部分もあるかもしれないです。
所属している学生も関心分野がそれぞれバラバラなので。もっと面白いことをしていたり、活動的な人に会おうと思うと、そこで総政の枠を飛び出しちゃうんですよね。総政の中だけで何かをやったことはほとんどなかったように思います。

専門性がない分、良いこともありますよね。
坂野さん
そうですね。まさに、一つのことをやり続けなければならないみたいなことが少ないからこそ、時間的にも余地が残るので、そこは総政の良いところだと思います。

総政に限らず、学生生活全般の中で特に学んだ事があれば教えてください。
坂野さん
人と何かをやる難しさです。アイセックでの活動は自分にとって良かったと思います。
人と一緒に何かをすること。特に日本国内だけではなく、色々な海外の人たちとも一緒に何かをすることの実践部分での経験は大きかったですね。

海外の人と活動を共にする。なかなか経験出来ないですよね。
坂野さん
あとは色んな人と一緒に活動すると、自分の得意分野がある程度分かって来ることですね。わたし自身、何かの専門家になるというのが向いてる人では無いと分かりました。
どちらか一方の立場に立つのではなく、中立の立場からコーディネートする方がどちらかというと向いている人だと気づきました。

今の学生に伝えたいことがあれば教えてください。
坂野さん
興味を持ったものは何でもやってみるのがいいと思います。実践を通して学びを得るのが総政的な発想だと思うので。
学生のうちは何でも手出しをしていいと思いますし。何か興味を持ったらまずやってみる、そのうちちょっとずつ見極めていくことができれば良いし、初めてのことに挑戦するのも良いですね。
少し難しそうなことに挑戦するための気力と体力は年を重ねるごとに減っていくと思うんです。そういうものは本当に学生のうちに、若いうちにやっておくのが良いと思います。

若いうちにガッツリやっておけば全然スタートダッシュが違いますよね。その上にさらにどんどん経験を積んでいきますから。
そうした経験が坂野さんの土台になってるんだろうなとお聞きしていて思いました。
すごく楽しかったです。ありがとうございました。

関西学院大学総合政策学部の大先輩である、坂野晶さん。
環境に携わる仕事で働く今、大事だと感じるのは“経験”と“人の話を聞く力”。
高校生のみなさんは、これからはじまる大学生活に期待を膨らませていますか?
それとも、社会に出て働くことに不安を感じていますか?
今はまだ、スキルや経験がなくても大丈夫。
“興味を持ったらやってみる” その中で経験することが、きっと今後のあなたの役に立つから。
<取材=諸富稜(スタジオMOVEDOOR代表)>