
- インタビュー記事
ソーシャルビジネスの一翼を担い、社会起業家を採用・育成。呉原郁香さんが語る「国際協力を学ぶ」大学生活の過ごし方とは?
2022年3月11日
「ソーシャルビジネス??社会起業家??」と頭の中が疑問符だらけになった方はいませんか。
「社会問題をビジネスを通じて解決することを『ソーシャルビジネス』と言い、社会問題を解決する起業家を『社会起業家』と呼んでいます」そう教えてくれたのは、学生時代に国際政策について学び、現在は株式会社ボーダレス・ジャパンにて社会起業家の採用・育成を担当する関西学院大学総合政策学部の先輩、呉原郁香さん。
そんな呉原さんが総合政策学部で学び得たものは、国際協力に関する様々な経験から感じたことをきっかけに自分の考えを確立する力。
自分自身が社会起業家を経験後、現在は社会起業家を採用・育成する側になった呉原さんに「国際協力を学ぶ大学生活の過ごし方」について教えていただきました。

2014年総合政策学部卒。在学中にガーナとグアテマラのNGOでインターンとして活動した他、国連ユースボランティアに参加しウクライナに長期滞在。(株)ボーダレス・ジャパンに入社後、バングラデシュの貧困層の雇用安定を図る事業の立ち上げに携わり、その後、貧困・教育問題の解決を目指すマイソルをグアテマラで創業。現在は若手の社会起業支援も手掛ける。
インタビュー動画はコチラ
ビジネスを通じて社会問題を解決

呉原さん、本日はよろしくお願いします。
呉原さん
よろしくお願いします。

まずは、呉原さんの自己紹介をお願いします。
呉原さん
みなさん、はじめまして。ただいま株式会社ボーダレス・ジャパンにて、社会起業家の採用と育成を担当しております、呉原と申します。どうぞよろしくお願いします。
私は、2014年3月に関西学院大学総合政策学部の国際政策学科を卒業しました。学生時代は国連で働いていらっしゃった教授のもとで国際政策について学びました。今は、弊社ボーダレス・ジャパンにて社会起業家の採用・育成を行っていますが、入社直後はバングラデシュにて貧困層の人たちの雇用を作る事業であったり、中米のグアテマラで貧困問題解決のために事業を立ち上げたりしていました。



現在のお仕事やビジネスについてもう少し詳しくお聞きしてもいいですか。
呉原さん
はい。ちなみにみなさん、『ソーシャルビジネス』ってご存じですか。聞いたことありますかね。

はい、あります!
呉原さん
ありがとうございます。 私たちの定義で、貧困問題、環境問題、障がい者雇用などの権利問題のような社会の問題のことを『社会問題』と呼んでいるのですが、この社会問題を解決するために政府機関や国連、NGO、NPO、市民団体などがいろいろなアプローチをしています。そのなかで私が働いているボーダレス・ジャパンは、社会問題をビジネスを通じて持続可能な形で解決する『ソーシャルビジネス』のみを行っている会社なんです。

NGOとは、貧困や紛争、災害などの地球規模の問題を解決するために民間の立場で利益を目的とせず取り組む市民団体のこと。
NPOとは、株式会社や合同会社などと違い、利益を目的とせず、ボランティアに近い活動を行う特定非営利活動のこと。

呉原さんはボーダレス・ジャパンのなかで、どのような役職を務めていますか。
呉原さん
同社では、先ほどお伝えした通り、社会問題を解決する起業家を採用、育成しているのですが、彼らのことを『社会起業家』と呼んでおり、私は社会起業家の採用を担っています。
実は2014年に新卒で入社した当時は、私も社会起業家でした。例えば、中米のグアテラマにて子どもたちの教育支援をするために、まずは彼らのご両親を雇用するための事業を立ち上げました。その後、自分が社会起業家として活動を続けるよりも、社会を良くしたいと思っている社会起業家がどんどん増えることによって、より大きなインパクトが出ると考え、日本に帰国することを決めました。そして、今は社会起業家をどんどん増やす活動として、社会起業家の採用、育成に携わっています。

社会起業家の育成ということですが、具体的にどのようなお仕事をされていますか。
呉原さん
大きく二つあります。
一つ目は、啓蒙活動です。『ソーシャルビジネスって何なの?』と思っている多くの人たちに、社会問題に対してのアプローチのひとつとして、ビジネスを通じて問題を解決する方法をお伝えする講演会を開いています。
二つ目は、採用活動です。社会起業家になりたいと思い、弊社にエントリーしてくださった方の面接を行うのですが、面接では弊社の枠組みの中で起業することが最善の方法であるのかをエントリーした方と一緒に考えています。


お仕事をしていて、楽しい時ややりがいを感じる時はありますか。
呉原さん
はい。社会を変えるというのは一日二日でできることではなくて、時間のかかることですよね。でも、例えば私は中米の子どもたちのために教育支援を行いたいと思っていましたが、アフリカのウガンダも中米と同じ問題を抱えているんです。ウガンダでも子どもたちのために問題を解決したいという起業家が集まることで、同じ志を持つ起業家やメンバーと一緒に社会を変えていくための仕組みや商品、サービスを作っています。消費者の方がこれらの商品やサービスを消費することで少しずつ社会が変わっていくという瞬間に携われることは自分のモチベーションにつながり、やっていてよかったなと思います。

お話を聞いていて、自分が社会問題を解決していることを実感できるお仕事は珍しいと思うので、そこにフォーカスされている点が魅力のお仕事かなと思いました。
呉原さん
ありがとうございます。


ソーシャルビジネスの会社で働くために必要な知識や経験、スキルなどはありますか。
呉原さん
弊社の例をお伝えしますと、大きく分けて二つの種類があると思います。
一つ目は社会起業家として働く場合です。これは一般企業で言うと、企業のトップとして働く形になります。この場合、知識や経験はあったほうがいいですが、一番重要なのは『社会を変えたい』という強い想いだと考えます。 どんな社会問題を解決したいと考えているのか。その社会問題に対してどのように行動していくのか。解決後の将来をどんな社会にしたいのか。これらを全て一言で言うと、やはり『社会を変えたい』という強い想いが必要だと思います。
二つ目ですが、社会起業家をサポートする役割として働く場合です。社会起業家だけでは事業を進められないので、例えばマーケターやライター、PRをする方、ウェブをつくるプログラマーなど、社会起業家をサポートする方は沢山いらっしゃいます。サポートする役割によって必要なスキルや経験は沢山あるので、みなさんが得意にしている分野のスキルを使ってどのような社会問題を解決したいかという点が定まっているのであれば、その分野で専門家になり、そのポジションにアプライしていただく形があるかなと思います。

ソーシャルビジネスに関わると言っても、起業家として関わったり、専門家として関わったり、いろいろな関わり方があるんですね。逆に言えば、どんなところからでも関われるからこそ、世の中を良くしたいという想いの部分が大事だと感じました。

関西学院大学総合政策学部は経験を通して自分の考えを確立できる場所

総合政策学部での学びは今どのように活きていますか。
呉原さん
総合政策学部ではいろいろなことを学んできたなと、今思い返しているのですが、やはり国際協力の在り方について学んだことが一番大きいと思います。例えば関西学院大学全体のプログラムに参加させていただき、海外インターンに行きました。ゼミでは西アフリカの観光業について研究したり、国連職員だった教授のもとで政策について学んだりしました。
このような経験を沢山していくなかで、国際協力にはどういう役割があるのか、各組織の中でどういったアプローチがあるのかという二点を、経験豊富な教授から教えていただくことができました。それだけでなく、用意されているプログラムを通じて、どの立場でアプローチすることが自分に合っているのかを考えることもできた大学時代の学びは、ソーシャルビジネスという形で働いている今に繋がっていると思います。

学生生活で一番学んだことは何ですか。
呉原さん
海外でも日本国内でもいろいろな活動に参加していたのですが、何かに参加しようと考える度に教授や先輩、友人、後輩などに相談していました。相談させていただいた皆さんが同じ志を持っているので、多くの方が背中を押してくれたんです。皆さんから沢山のアドバイスを頂き、いろいろな活動に参加した経験から、世界に出て、いろいろな社会を見て、自分の考えを持って行動することを学んだと思います。

そのような学生時代の経験がボーダレス・ジャパンに入ろうと思うきっかけになったのですか。
呉原さん
そうですね。大学2年生の時に3か月間、西アフリカのガーナにてNGOで働いていたのですが、そこでは資金を調達する仕事をしていました。そのなかで事業や政策を行うために資金はとても重要で、資金調達にはすごい労力と人が関わっているということに気づいたんです。例えば、スタッフが10人いるなかで7人くらいが資金調達を行っていたのですが、資金を他の企業に頼っている形は私にとって『これって、どうなの?』と感じる事業形態でした。


呉原さん
また、アフリカだけでなく、ウクライナのUNDP(国連開発計画)に大学のプログラムを使って参加させていただきました。そこで働いていた経験も自分の中で印象深く残っています。ウクライナにいる間、政治やいろいろな関係で元々3年間の予定だったプログラムが残り半年を残して急遽止まってしまうことがありました。この背景として、ウクライナとロシアやEUとの政治的な関係が少し悪くなってしまったために、このプロジェクトのドナー先であったEUにプロジェクトを終了するように言われたことが挙げられます。国連機関の大きなプロジェクトでさえ政治的な関係が要因となって続行不可能になった状況を目の当たりにして、このプロジェクトのために働いている方や、対象の高校生たちのことなどは関係なく、プロジェクトが終了してしまう現実を痛感しました。

※UNDP(国連開発計画)とは、United Nations Development Programme の略称で、貧困の根絶や不平等の是正、持続可能な開発を組織する国連の主要な開発支援機関のこと。
呉原さん
NGOの資金調達の難しさを実感。プロジェクトに関わる人が意図しない形でそのプロジェクトが終わってしまう現実を体感。この二つの経験を通して、やはり持続可能な形で他の人から資金をもらうことに限界を感じました。そして、そうであれば自分で資金を作り出すビジネスの形で事業を進めたいと思ったんです。
しかし社会経験もお金もなく、ビジネスについて何もわからない自分がいきなり起業することはできない…と思っていたとき、ボーダレス・ジャパンのことを知りました。そして、この会社であれば資金を提供してくれ、社会起業をされている先輩起業家の方々からいろいろなノウハウを教えていただけるため、ボーダレス・ジャパンで起業したいと思い、入社いたしました。


確かに、ボーダレス・ジャパンはソーシャルビジネスに挑戦する人にとってこの上ない環境ですね。人もお金の面もいろいろなサポートがあるからこそ、ボーダレス・ジャパンの中から沢山のソーシャルビジネスが生まれているんだろうなと思いました。本日はありがとうございました。
呉原さん
ありがとうございました。


関西学院大学総合政策学部の先輩である、呉原郁香さん。
自ら社会問題と向き合い、解決に向けて尽力するとともに、社会起業家の採用・育成担当として同じ志を持つ仲間を増やせているのは、様々な国際協力を経験した大学時代に、常日頃から問題意識を持ち、自分で考えて行動する力を身につけたから。
高校生のみなさんは、社会問題を解決するなんて自分にはできるわけがないと思っていませんか?
たとえ社会問題に対して志が低くても全くおかしくありません。でも、少しでも関心があるなら、ぜひ日本や世界の問題に意識を向けてみてください。
そして、大学生活では関心のある社会問題に対して何かしらのアクションを起こしてみてください。経験の数々は、自分の考えを持って行動し、同じ志を持つ仲間に出会うきっかけになるはずだから。
<取材=諸富稜(スタジオMOVEDOOR代表)>