
- インタビュー記事
途上国のモノづくりと職人さんの想いを届けたい。森涼湖が語る「人生を豊かにする」大学生活の過ごし方とは?
2022年2月18日
途上国や途上国に住む人について、どんなイメージを持っていますか。
「先進国、途上国というフィルターで人を見ることがどれだけ人と人との関係性の豊かさを阻害しているかを学びました」そう話してくれたのは、学生時代に国境を越えた多くの活動を経験し、現在は株式会社マザーハウスでエリアマネージャーとして活躍する関西学院大学総合政策学部の先輩、森涼湖さん。
そんな森さんは総合政策学部で、この世界には心のフィルターや見えないバリアが沢山あることに気づいたという。
自ら行動し、見える世界を広げ続けた大学時代を経て、現在はモノづくりで途上国の可能性を広げている森さんに「人生を豊かにする大学生活の過ごし方」について教えていただきました。

株式会社マザーハウス 関西エリア エリアマネージャー。総合政策学科、小西ゼミ卒業。学生時代、国連学生ボランティアとしてキルギス共和国に半年間在住。大学卒業後は住み込みでまちづくりに従事。その後肌着メーカーに就職し、百貨店営業を経験した後、マザーハウスに転職。店長経験を経て、現在関西8店舗を統括している。
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紡いだ言葉で人の想いを人に届ける

森さん、本日はよろしくお願いします。
森さん
よろしくお願いします。

森さんの自己紹介を頂いてもいいですか。
森さん
はい。森涼湖と申します。関西学院大学の総合政策学部総合政策学科を2012年に卒業しました。今は、MOTHERHOUSE(マザーハウス)という会社で働いていて、『途上国から世界に通用するブランドをつくる』という理念のもと、バックやジュエリーなどのファッションブランドのお店を統括するエリアマネージャーをしております。

働いている会社のことをもう少し詳しく教えてください。
森さん
マザーハウスは現在6か国で、途上国に眠っている素材や職人さんの技術を生かし、その土地の技術だからこそ作れるモノづくりをしています。生産から販売まですべて自社で行っており、日本と台湾、香港、シンガポールにあるお店で販売しています。

商品の特徴をもう少しお聞かせください。
森さん
このブランドはバングラデシュでのバックづくりから始まりました。バングラデシュはコーヒーの麻袋に使われるジュート(黄麻)という素材の生産量世界1位を誇ります。元々は、この素材を使ってかっこいい、かわいいいバックを作れないかと思ったことがきっかけで、今ではバングラデシュでジュートだけでなくレザーのバックも作っています。
ミャンマー、スリランカ、インドネシアでは、線細工や天然石を使ったかわいいジュエリーを作っています。他にもネパールでカシミヤとシルクを使ったストールを手作りし、インドではお洋服を作っています。

マザーハウスの魅力を教えてください。
森さん
途上国と呼ばれる国は貧しいイメージがあると思いますが、現地に行ってみると本当に多様な文化があり、手仕事やいろいろな素材、職人さんの技術が眠っているんです。
安かろう、悪かろうものを作らされて大量生産で輸出する形もありますが、マザーハウスは自分たちが誇りを持って作れる良いものを作り、お客様にその商品を本当にかわいい、かっこいいと思って買っていただくことを目指しています。私たち店側と生産地の職人みんなが一緒になり、このゴールを目指して頑張っている点が魅力かなと思っております。

森さんはどんな役職を務められていますか。
森さん
今は、関西にある大阪、京都、神戸の8店舗を統括するエリアマネージャーとして働いています。普段はそれぞれのお店に行って、店長さんと話したり、育成したりしています。また、出店戦略と言って、どこにお店を出したらお客様に喜んでいただけるかを考え、具体的にチームで動いていく仕事もしています。


お仕事をしていて、楽しい時ややりがいを感じる時があれば教えてください。
森さん
私たちは職人さんが想いを込めて作ったモノをその国の文化と共にお客様に届ける『橋渡し』の役割をしています。しかし、ただ橋渡しをするのではなく、モノづくりの様子、職人さんの想い、実際に行かないと分からない生産地の話や職人さんのチャーミングな部分も含めて、商品の背景にあるストーリーをお客様にお伝えしています。その際に大事にしていることは、お客様と店員の形ではなく、人間対人間としてお客様と接することです。人間対人間の関係性を築き、お客様に『あなたと出会ったから、こういうことに気づけた。こんな素敵なものに出会えた』と言っていただける。そして、お客様の人生の思い出になっていく瞬間を作り出せる。私はここにすごくやりがいを感じます。
また、ファッションを楽しむ中で世界に対するいろいろな気づきや、途上国と呼ばれる国にもこんなに素敵な人がいて、こんなに素敵なものがあるんだという新しい驚きと発見、美しさ、楽しさがあります。この仕事は、様々な気づきや感情を自分たちの言葉で紡ぐことができます。途上国や国際関係の勉強をしていなかったとしても、買い物はみなさんがされることだと思うので、自分たちの言葉で消費者の皆さんに新しい感情を与えられることもやりがいの一つです。
そして、若くしてマネージャーというポジションにつき、大きな裁量権を持ってお店を運営できることもすごくやりがいだと思います。マザーハウスでは、お店を運営する店長は『店長ではなく経営者であれ』と言われるんですね。例えば、店長はお店でいろいろな商品開発や地域の方を巻き込んだイベントをすることができます。接客のような小売りだけでなく、いろいろなコミュニケーションを自分たちの手で作っていくことができるので、すごく挑戦しがいのある仕事だと思っています。
このようにマザーハウスはチャレンジ次第で自分の可能性を拡げられる会社です。挑戦した上での失敗はむしろ大歓迎で、店舗や途上国の可能性を広げるための取り組みが評価されますし、『こんなことがしてみたい!』と声を挙げれば、店舗の販売スタッフをはじめとした仲間たちが応援してくれます。今思うと、学生時代にも、感じた違和感や疑問に対して周りに発信すれば、同じように感じて応援してくれる仲間がいて、フットワーク軽くチャレンジできる環境がありました。大学で積んだ経験と出会いが、想いを持って思いっきりチャレンジできる原動力になっていると感じています。


とても素敵なお仕事だと感じました。その会社や業界で働くには、どのような知識やスキル、経験が必要でしょうか。
森さん
新卒採用も行っているので、特にこういう資格、経験が必要ということはありません。しかし、ファッションや途上国、モノづくりなど、自分が興味のあることや人生で成し遂げたいことと、マザーハウスが大切にしていることが重なっているかをすごく大事にする会社なので、自分が想いを持って行った経験を自信を持って人に伝える力が必要かなと思います。

関西学院大学総合政策学部は自分次第で心のフィルターを取っ払える場所
総合政策学部での学びは今どのように活きていますか。
森さん
様々な国籍の友達と関わったことと国連ボランティアの経験が今もすごく活きていると思っています。総合政策学部には様々な国から多くの学生が来ていたので、多国籍で友達ができました。また、2回生の時に国連ボランティアという関学のプログラムに応募してキルギス共和国に半年間住んでいた経験があります。
それまでは国際関係学などを学ぶ中で、支援する側、される側という視点で途上国を見てしまうことがありました。ただ実際に行ってみると現地にはすごく優秀な人や素敵な人がいて、むしろ私のほうが教えてもらうことが多かったくらいだったんです。そういう方たちとの出会いを通して、先進国、途上国というフィルターで人を見ることがどれだけ人と人との関係性の豊かさを阻害しているかを感じました。
やはり自分の目で見て確かめ、実際に心からコミュニケーションを取ってみることで取れていく心のフィルターや見えないバリアがこの世界には沢山あります。私はフィルターやバリアを取っ払った先にある素敵な世界を学生時代に見れたことが、今でも人生の財産になっていると思います。


印象に残った授業はありますか。
森さん
一番印象が強いのはゼミでの活動です。私は小西先生の国際キャリアゼミに所属していました。ゼミではフィリピンでフィールドワークを行い、ゴミ山に住む子どもたちや、ストリートチルドレンに会ったのですが、そこで見た現実に衝撃を受け、帰国後もゼミ仲間たちと自分たちが日本でできることを議論し続けました。議論の結果、大学の近くにあった保育園に協力を仰ぎ、サイズが小さくなり履けなくなったけれど、まだまだキレイな靴を現地に届けるというプロジェクトの立ち上げに至りました。


森さん
いろいろな試練を一緒に乗り越えたゼミの仲間は、社会人になった今でも大切な友人として繋がっていて、仕事の悩みを相談することもあります。最近嬉しかったのは、ゼミ仲間が働いている百貨店にマザーハウスとして出店できたこと。ゼミで一緒に活動していた仲間と、お互い成長して、今大きな仕事を一緒に出来ていることに感謝と強い縁を感じています。
また、授業ではありませんが、チャペルの時間も印象に残っています。授業と授業の合間30分くらいで、いろいろな社会情勢について聞いたり、議論したりしていました。今起きているニュースを題材に自分が感じたことや意見を交わすことがすごく楽しくて、視野を広げる良い機会になったと思います。


学生生活で一番学んだことがあれば教えてください。
森さん
いろいろな国の人と関わる中で、誰かにとっての正義が相手にとっての正義になるとは限らないことを学びました。大学生活で一番面白かったのは、気になったことを自分で調べてみたり、実際に足を運んでみたり、話を聞いてみたりできたことです。これは大学だからこそ可能な学びだと思っています。
例えば、私は大学時代に中国から来ている留学生のみなさんと韓国から来ている留学生のみなさん、そして日本人のみなさんを集めて『3か国サミット』というイベントを開催したことがあります。ニュースでは対立をよく見ますが、人と人が真剣に向き合えば、もっと分かり合えるのではないかという想いから、このイベントを企画しました。実際に話してみると、やはり学んできた歴史や触れてきた文化が全く違うので、対立する意見もありましたが、イベント後の飲み会で笑いながらプライベートの話をすることもできて、人として同じように感じることもあると実感しました。このイベントを通して留学生の方とすごく仲良くなれたときに、『日本に来て苦しいこともあったけど、君たちみたいな人がいるんだったらすごく希望が持てるよ』と言われたことが今でも心に残っています。
自分から心のボーダーを越えられた経験を通して、二項対立でどちらかが悪い、これはこうだという決めつけが、人と人との関係性の豊かさを阻んでいることを学び、どちらかが正しいということではなく、どうすればお互いにとって良い解決策が生み出せるかを諦めずに考え続けることがすごく大事だと学びました。


最後の質問です。今の学生に伝えたいことがあれば教えてください。
森さん
疑問を持ったことに対してすぐに答えを見つけるのではなく、答えを見つけるプロセスを楽しんでほしいです。もしかしたらいろいろな答えがあるかもしれないし、答えが見つからないかもしれませんが、そのプロセス自体を楽しむことが人生をすごく豊かにすると思います。
今までを振り返って思うのは、悩んだりすることや失敗したりすることは人生の中で無駄ではなくて、むしろいろいろなことを考えるきっかけや自分が変わるきっかけになることが多かったということです。学生のみなさんにも、ぶつかったときこそ今が成長の時だと思って諦めずにトライし続けてほしいなと思います。

とても素敵なインタビューをありがとうございました。
森さん
ありがとうございました。


関西学院大学総合政策学部の先輩である、森涼湖さん。
職人の想いが詰まった商品をその国の文化と共にお客様に届ける『橋渡し』役として、多くの人の心を動かせているのは、国籍というフィルターを取っ払い、相手を一人の人間として見る大切さを学んだ大学時代があるから。
高校生のみなさんは、何かしらのフィルターを通して人を見たことはありませんか?
おそらく誰もがフィルターを通して人を見たことがあるはずです。むしろ、ここで「ある」と答えた方はその存在に気づけている自分に自信を持ってください。
そして、大学では興味のあることに果敢に挑戦して、フィルターを取っ払った先にある世界を見ませんか。自分次第で何でも出来る大学時代に経験を積み重ね、見える世界が広がれば、その先の人生がきっと豊かになるはずだから。
<取材=諸富稜(スタジオMOVEDOOR代表)>