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  • インタビュー記事

スポーツ新聞業界の日刊スポーツで阪神タイガースの担当記者に。中野椋さんが語る、大学時代の過ごし方とは?

2021年11月18日

大学生になって何かに全力投球することは恥ずかしいと思っていませんか?

「総合政策学部には、何かに夢中になれる環境があり、何かを頑張っている人がたくさんいる」

そう話してくれたのは、スポーツ新聞をつくる日刊スポーツで阪神タイガース担当として記事を書かれている、関西学院大学総合政策学部の先輩、中野椋さん。

そんな中野さんが総合政策学部で学んだのは、自分で考え、失敗して、経験を積む大切さ。それは中野さんの生きるヒントとなり、今に活きています。

新聞記者として、阪神タイガースを追いつづける中野さんに「大学時代の過ごし方」について教えていただきました。

【中野椋】
1995年(平成7年)5月16日生まれ。兵庫県宝塚市出身。関西学院高等部から関学に入学し、高校時代は野球部。2014年に総合政策学部へ進学し、メディア情報学科の窪田ゼミに所属。上ヶ原キャンパスが拠点の体育会学生本部編集部「関学スポーツ」で編集長を務め、陸上競技部の多田修平らを取材した。2018年卒で株式会社日刊スポーツ新聞西日本に入社。入社3年間は新聞のレイアウトを行う整理部で1面のレイアウトを担当し、デザインに没頭する。2021年4月からプロ野球阪神タイガースの担当として日々奮闘中。


インタビュー動画はコチラ

学生時代に全力を注いだことが今に繋がっている

中野さん、本日はよろしくお願いします。

中野さん

よろしくお願いします。

中野さんの自己紹介をしていただけますか。

中野さん

はい、18年総合政策学部のメディア情報学科で窪田先生のゼミを卒業した中野椋と申します。

現在は、日刊スポーツの大阪本社で働いており、阪神タイガースの担当として一年目です。よろしくお願いします。

ありがとうございます。阪神タイガース、すごいですね!

中野さん

いやー、まあ、強いですね、今年(笑)。びっくりしています。

それでは今、どのような会社・業界で働いていますか。

中野さん

マスコミ業界のなかでも、スポーツ新聞を専門とする日刊スポーツで働いています。

入社3年間は新聞のレイアウトをする整理部という部署で働いておりまして、今年の4月から阪神タイガースの担当として現場の取材や原稿の執筆などをさせていただいております。

2020年11月 レイアウトした藤川球児引退特集のポスター

新聞をつくる会社は忙しいイメージですが、実際はどのような働き方をしていますか。

中野さん

入社後3年間配属された、新聞のレイアウトをする整理部では、夕方に現場の記者たちが書いた原稿を紙面にまとめていく役割を担っていたので、夕方に出社して深夜2時くらいに帰宅する夜勤の仕事をしておりました。

現在の阪神タイガース担当の仕事は、1年間チームに引っ付きまわります。現場では私が一番下っ端なのですが、下っ端は小僧と言われ、阪神の2軍選手たちがいる西宮の鳴尾浜球場などへ行き、選手に張り付いて取材します。

また、今はコロナウイルス感染防止の面から、なかなか選手への直接取材がしにくい状況であるのですが、単に選手と記者の関係ではなく、人と人のつながりを持ちたいという思いのもと仕事をしています。

ただ取材をするだけじゃなく、人間関係を築くようにしているということなんですね。

中野さん

そうですね。会社の先輩などに言われますが、今は通常の取材スタイルができていない状況なので、今年4月から現場に出て、最近はコロナの弊害をすごい感じています。

コロナの影響がなければ、取材されるときにどのようなことを心がけていますか。

中野さん

先ほども言いましたが、取材記者と選手の関係と言えど、人間と人間の関係だと思っているので、ちょうど諸富さんと会話しているように話せる関係を構築できればいいのですが…。

やはり現場では下っ端の小僧なので、選手のほとんどは 『誰やねん、こいつ』という状況です。顔と名前を覚えてもらうにしても、果たして一年で何人に僕のことを覚えてもらえたのかな…。一番の理想は、事前に関係性をしっかり構築して、現場ではフランクに話せる形なので、そうなるように日々意識しています。

とても勉強になります!それでは、お仕事をしていて、楽しいことややりがいを感じるときはありますか。

中野さん

マスコミ業界、特に新聞業界は自分がつくったもの、書いたものが世の中に発信されるという、普段ではなかなか味わえない職業だと思うので、責任感やドキドキ感を日々味わっています。逆にやりきったときには、その感情が快感や楽しさにつながるのかなと思います。

具体的に言うと、『あと〆切30分で12字×70行の原稿を書け』というスリリングな状況だったり。レイアウトをしていたときであれば、〆切15分前に原稿を受け取れるので、『15分でこのレイアウトを完成させなさい』という…。アドレナリンがすごい出るようなプレッシャーのかかる、なかなか味わえない仕事をさせてもらっているかなと(笑)。そういう瞬間が楽しいし、やりがいを感じるときですね。

充実していそうですね!

中野さん

いやー、でも早死にしそうやなと思いますね(笑)。

そうですか(笑)。そんなメディアで取材をするお仕事には、どのような人が向いていると思われますか。

中野さん

もちろん人間関係を構築するためのコミュニケーション能力は必要だと思いますが、人の目や周りの評価を気にしていたら、どうしようも前に進めないことだったり、ぐいぐいと入っていけないところがあったりするので、そういうことをキャラで演じるのではなく、素でできる人は強いなと思います。なかなか僕はそうじゃないですし、演じている人は沢山いらっしゃるはずです。素で、とにかく人を口説き落とすのが好きだとか、女の子にとにかくモテたいとかもある意味、仕事につながると思いますね。素でそれができたらいいですし、できない人はある程度演じながらやることも必要かなと感じています。

そして、やっぱりコミュニケーション能力です。基本的に相手は目上の人ですし、選手にとっては『こいつは何を分かってる記者やねん』という存在なので、いかにその懐に入り込めるか、ですかね。

新聞業界であれば『書く』ことのように、専門的な技術は入社後にどうにかなるので、やっぱり元々持っている人間の部分が重要だと思いますね。僕は就職試験の最終面接で『君、体力あるか』そして『君、面白い人間か』と聞かれました。最終面接で言われたら『そうです』というしかないですよね(笑)。でも、向いている人の特徴はこの二つに凝縮されているのかなと思います。

日刊スポーツが求めている人が最後の二つの質問で、すごく分かります。そこで『はい』と言える人しか、いらないわけですね。面白い!

中野さん

最終面接だったら、そう言うしかないですよね(笑)。

たしかに選択肢がないですよね(笑)。

関西学院大学総合政策学部は「何かに全力投球できる」場所

総合政策学部での学びは今、活きていますか。

中野さん

総合政策学部は、ある意味、変人を認めてくれる学部だと思っています。僕は総合政策学部ではない一般学生を見ていて、何かを意識高く頑張っていたら『お前、意識高い系やん』っていう大学生のノリで、尖って頑張る人を認められない風潮を感じていました。

ただ総合政策学部は、一点集中で何かを頑張っている人やいろいろなことを頑張っている人を認めてくれる雰囲気があって。『自分も頑張らなあかんな』と思えるような、お互い刺激できる関係の友達や先生が沢山いて、そこからの学びは非常に多かったです。

あとは、レイアウトの部署から現場の記者になって感じましたが、おそらく社会人は何でもできないとだめなんですよね。なんでもできて、なんでも頼れる人が生き残れると思っているので、そういう意味では、総合政策学部はいろいろなことを学べる、いろいろな授業を受けられる、そしていろいろな人がいるので、社会で生き抜く力をつけることができたのかなと思っています。

総合政策学部の魅力がひしひしと伝わってきました
それでは、課外活動も含め、学生生活で一番学んだことは何ですか。

中野さん

関学スポーツという学生新聞で4年間活動していたのですが、そこは高校までの部活と違って、指導者がいません。逆に言うと、自分たちでやるので、ほとんど失敗だらけなんですよね。もちろん伝統あるクラブで、ノウハウが確立されているのであれば、うまく運営できたり、新入生が毎年入ってきたりしますが、関学スポーツは1学年5,6人の所帯で、毎年挑戦するような部活だったので、ほとんど失敗だらけでした。

でも逆に自分たちで、こういう紙面を作ったらいいのでは、こういう選手に取材したらいいのでは、と考えていましたね。たとえば、当時は大会をすべて勝って4冠したサッカー部をどうやって盛り上げようかであったり、準硬式野球部からプロ野球選手が出た年でもあったので、どうやって報じようかであったり…。自分たちで考えて、自分たちで失敗して、自分たちで学びに変えられたので、経験して失敗できたことが一番学びですね。

2016年4月、自分たちで作った関学スポーツを持って。

実際に活動されていたからこそ言える素敵な言葉をありがとうございます。そんな学生時代に印象的だった取材はありますか。

中野さん

オリンピックに出場した、陸上の多田修平選手への取材は印象的ですね。彼は僕のひと学年下で、陸上競技部に所属していました。僕が陸上担当として取材していた当時、彼は一年生の時にいきなり関西大会で優勝して、二年生の時には全国大会にも出たので、僕は『この選手は来るぞ』とずっと周りに言い、多田選手の記事も書かせてもらいました。

多田選手は今年6月の日本選手権を優勝して、オリンピック出場を決めましたが、僕は当時たまたま名古屋から大阪に帰ってきた日で、日本選手権の会場であった長居競技場に観戦者として行ったんです。

彼が最初に『東京五輪』という言葉を言ったのが、大学一年生の冬の大会のフレッシュマンキャンプという研修合宿なんですが、そこで彼は『東京五輪に行きたい』と言ったんです。ただ、当時は無名なので、周りは『何言ってんねん、この人は』という感じですよね。僕は、日刊スポーツに入ったからには、多田選手がその状況から夢を叶えた物語を書きたいなとずっと思っていて。

陸上担当ではないのですが、日本選手権で優勝した彼が泣いた瞬間に、競技場で僕もひとり号泣して、ここで記事を書かないと後悔するなと思いました。実は多田選手については以前から100行ほどの記事を書いて準備していたので、競技場でひとり泣いた瞬間に、上司にメールで提出したんです。すると『なんでこんなに100行もすぐ出てくんねん』と突っ込まれて、『いや、ずっと書いてたんですよ』というやりとりもあって(笑)。

最終的には、日刊スポーツのウェブ版に全文掲載され、多田君が一面を飾った新聞の全国版でも、少し掲載させてもらいました。そのときは、学生時代に仲良くさせてもらっていた陸上競技部の仲間たちなどから大きな反響をもらって、多田君自身もTwitterで『この記事を読んでください』と拡散してくれて…。ほんとに会社を辞めていいなって思うくらい、すごくいい経験をさせてもらいましたし、多田君に取材させてもらったことが今につながっていると思っているので、学生時代にこのような選手に巡り合えたことは大切な思い出です。

すごくいい話ですね、ありがとうございます。

2017年10月撮影。多田選手(左)と中野さん(右)。

メディア業界を目指す学生は多いと思います。新聞社などのメディアに就職するために学生はどんな準備や経験をしておけばいいでしょうか。

中野さん

やっぱり、その会社にとってプラスになるような人材が欲しいと思うんですよね。新聞や雑誌の紙媒体やテレビは、成長が厳しいと今言われていますが、その中で会社にとってプラスになるのは『一芸に秀でている学生』だと、僕は思います。

たとえば、落語をやっていて、『落語の番組はすぐに作れます』、『この落語家にすぐ取材できます』と言う学生は即戦力ですよね。ほかにも『お笑い芸人をやっていたので、お笑いの番組や紙面を作れます』とか。何か一個をやりきって、社会に出るときに『この武器で、会社の新聞、テレビにメリットを与えられますよ』ということを示すことができれば、強いです。

でも、落語に秀でても、お笑いに秀でても、『今はうちの会社で必要じゃない』と言われたら、そこまでですよね。逆に『丁度、お笑い部門や落語部門の人材を求めていた』という会社であれば、自分自身も働きがいがあるでしょうし、会社側も求めている一芸に秀でた学生と一緒に働きたいでしょうね。つまり、自分の武器でマッチングする会社が、その学生に合う会社だと思います。

とても参考になりました。一芸に秀でるって、大事ですね!

2018年3月卒業式にて

最後の質問になります。今の学生に伝えたいことはありますか。

中野さん

会社の後輩も当てはまりますが、周りからの評価を気にしすぎで、自己肯定感が低い子が多いなと思っています。やっぱり『自分が一番楽しいことをやってるよ』とか『自分が楽しいと感じることが周りにもメリットをもたらすから、自分の生き方はこういう生き方でいいんじゃない?』とか。そういうふうに前向きに取り組んでほしいですし、ある意味、わがままに生きていいと思います。

一番わがままに生きられるのが学生で、その延長線上に社会人があってもいいんじゃないでしょうか。『空気を読め』とか言われますが、『わがままに生きて、自分が一番楽しく生きたら周りも楽しいのでは?』と考えて、能力をつけて楽しんでほしいなと思います。

わがままなほうが夢中になれるということですね。

中野さん

そうですね!わがままになって、自分で何かに夢中になって、最終的にそれが自分の武器になったら良いと思います。総合政策学部の学生はそういう子が多くて、そういう環境で学べると思うので、社会に出ても存分に活かしてほしいなと思います。

学生さんに伝えたい話がたくさん頂けました。本当にありがとうございました。

中野椋さん、ありがとうございました!

関西学院大学総合政策学部の先輩である、中野椋さん。

今、やりがいを感じながら仕事に没頭できているのは、学生時代に刺激しあえる仲間とともに一つのことに全力を注ぎ、さまざまな失敗を通して、学びを深めていったから。

高校生のみなさんは、たとえやりたいことがあっても、なかなか周りに言いだせず、もどかしい気持ちを抱えているかもしれません。

今はそれで大丈夫。

大学で様々なことを頑張っている仲間に囲まれ、頑張ることをかっこいいと感じられる環境で過ごす。

そんな素敵な仲間と環境がみなさんの背中を押して、やりたいことに全力投球できる自分に出会えるから。

<取材=諸富稜(22期生)>